Review 08
ヤコウリュウジ
人も感情もグチャグチャになるライヴができない状況になって早8ヶ月。バンドにとって、リリースとライヴはまさに車における両輪であり、一時ならまだしも、どちらかが欠けた状態で走り続けることはできない。
最近はライヴビジネスに比重が置かれているから、と思う人もいるだろうが、そんなことよりも解放と表現の場がないということがどれだけ大きいことか。コロナ禍に見舞われてから接したバンドマンは皆やり場のない気持ちを抱えている。
リリースしてもツアーどころか1本のライヴすら思うような形でできない今、リリースに対して二の足を踏むのは当然であるし、レーベルとしてもただCDをリリースするだけになってしまう危険性も高い。すべてを突破するアイデアがすぐに浮かんでくることもなく、みんな身動きがとれない。
私事を付け加えるならば、はっきり言って物凄く暇だ。バンドが動けなければ、インタビューやレポートといった仕事は発生しないし、何も役割を果たせていない。仕事がゼロになったというわけではないが、音楽ライターと名乗ることがおこがましいような毎日ではある。
そんな中、「一発録り・無観客ライヴ盤」というコンセプトの本企画『BECAUSE IT'S 2020』は非常に刺激的だった。リアルなライヴを配信に切り替えるような代替案ではなく、ライヴ自体をリリースするというアプローチ。もちろん、ライヴ盤というのはスタンダードなモノではあるが、それとはまた違う意味合いを含んでいる。
もう少し突っ込むと、「この厳しい中でちょっと一儲け」なんて考えてないはず。もちろん、続けていく為にはビジネス的な側面も必要不可欠であるし、そこを否定するつもりは毛頭ないが、そんなことよりもレーベルとバンドの心意気がひとつになったモノであるのだ。
本企画にはPIZZA OF DEATHに所属する屈強なバンドたちが名を連ねているが、いち早く耳にしたい、したかったのはCOUNTY YARDとDRADNATSという、新作を発表したもののツアーが開催できなかったバンドたち。どちらも「このキャリアにしてまだポテンシャルを秘めていたか!?」と唸るような出来栄えだっただけに、ツアーを楽しみにしていたのだ。
COUNTRY YARDはガツンと新作の収録曲を並べたセットリストで挑み、実現しなかったツアーをここにきて体験できるような内容を披露。ライヴならではの曲と曲とのつなぎ、軽く音を鳴らしてからのちょっとした口上もグッとくる。 DRADNATSは初期の曲を交えながらも、現体制になって初めてイチから制作した新作を軸にした充実のライヴ。まさに今の彼らそのものであり、聴き惚れつつもニヤニヤしてしまった。
また、ライヴを観れる機会が少ないemberも聴きどころ十分。初公開の新曲だけに留まらず、アコースティックアレンジを施した曲もあれば、Eagles、RAMONES、Mötley Crüeの名曲のカバーも披露。決してバンドは止まっていないんだということをありありと示してくれている。
この他のバンドもすべて聴かせてもらったが、どれも持ち味が発揮されており、本企画はこれまでのようなライヴが行うことができない為のガス抜きという側面もあるだろうが、作品としても面白味を感じる仕上がりだ。
PIZZA OF DEATHと参加したバンドに最大級の感謝しながら聴き続け、熱気と汗と歓声で埋め尽くされたライヴハウスで爆音を浴びる日を心待ちにしたいと思う。