Review 01
矢島 大地 (MUSICA)
音の間合いは九者九様でありながら、すべてのライヴに共通しているのは息を呑むような緊張感。『BECAUSE IT’S 2020』と名づけられた本シリーズと一般的なライヴアルバムとの決定的な違いは、サウンドに対するトリートメントを加えずに、作品性ではなく一回きりの事件性だけに重点を置いている点だ。
コロナウイルス感染症が拡大して以降、「ライヴ」が無観客での映像配信を主にしたものへ急激に変化。その中にあって、映像作品ではなく一発録り音源の形を採ること自体が「ライヴとは、コピー・やり直しの効かない体験である」という精神性を端的に表している。
また、その精神性を各バンドが個々に発信するのではなく、PIZZA OF DEATH RECORDSという共同体のステートメントとして作品化していることもまた重要だ。
所属バンドのラインナップを見ればわかる通り、パンク、ハードコア、オルタナティヴロック……音楽性を問わず、群れることなく自分達自身でユニティを作り出す姿勢を持ったバンドにリスペクトを捧げてきたのがPIZZA OF DEATHである。
だからこそ従来はPIZZA OF DEATHの看板を冠したプロジェクトは数少なかったし、「SATANIC CARNIVAL」もPIZZAとは明確な差別化を図ることによって、レーベルの表明ではなくシーンの在りかとなってきたのだ。
その上で今回PIZZA OF DEATHが主体となったのは、言うまでもなく、ロックバンドがライヴハウスで表明してきた自由が制限されてしまった状況に対しての反骨声明である(反抗ではなく、真っ向からの存在表明という意味だ)。
90年代からライヴハウスを起点にしてラウドミュージック、ひいてはロックの根源的なアイデンティティを握りしめてきたレーベルとして、音楽が鳴る場所そのものが失われていく今こそ自分達自身が場所になろうという意志が本シリーズの核にあるのだ。
以前、MUSICAのインタヴューで横山健が話した言葉が今こそ思い出される。
「ロックバンドたるもの、作品をリリースせずにライヴだけするのはあり得る。だけど、ライヴをせずに作品だけリリースをするのは道理じゃない」。
ロックバンドの存在表明はいつだってライヴにある、楽曲の着地点はいつだってステージと観客の熱狂の中だーーそんなアティテュードが一切ブレてこなかったレーベル、バンド達だからこそ、この作品のサウンドは作品としての辻褄よりも一瞬の熱と音のスピードだけを追求している。
ストリートライヴをそのまま持ち込んだかのようにインプロやジャムを阿吽の呼吸で合わせていくSuspended 4thのライヴこそ本シリーズの中では異質と言えるかもしれないが、どの作品も各音の呼吸そのものが密封されたものであることを思えば、各バンドにとっての直球一本勝負がひたすら疾走していくだけとも言える。無観客ゆえMCといったMCはなく、しかしバンドにとっても代えの効かないステージであるという緊張感が本シリーズ最大の魅力であり、全9バンドの本質を克明に映し出している最大の要因だろう。総じて新しい試みだし、拳もモッシュもシンガロングもない。
しかし、ロックバンドにとってのステージとは、楽曲とは、歌とは、音楽の域に止まらず、ただここに生きていることの表明なのだと本シリーズは突きつける。そうして我々は、「ライヴ」の意味を、改めて知るのだ。