Review 12
小林 千絵
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、エンタテインメントは大打撃を受けた。ライブや舞台は延期・中止、もしくはキャパシティを減らしての開催を余儀なくされている。その間エンタメが根を絶やさないように、アーティストや関係者は様々な趣向を凝らしている。家から出ることもままならなかった自粛期間にはインスタライブや、SNSでの弾き語り動画企画「うたつなぎ」などが活性化。以降は頻繁に配信ライブが行われるようになった。そんな中、PIZZA OF DEATH RECORDSが始めたのが、一発録りのライブアルバムのリリースだった。
ライブ映像を生配信できるこの時代に、あえて、音のみ、音楽のみでの勝負。なぜ映像ではないのか。PIZZA OF DEATH RECORDSが“レーベル”であるというのはもちろんなのだが、ほかにも答えがある気がして、私はそれを考えながら、9組のアルバムを聴いた。そしてたどり着いたもう一つの答えが、リスナーを信用しているからということだった。あくまでも提供されるのは音源のみで、リスナーは自身でライブを作り上げていく必要がある。映像がないことで、私たちリスナーはこれまで見てきたライブハウスの景色や匂いを呼び起こし、これまで見てきたステージの風景を描く。そのためのパーツをリスナーが持ち合わせていることを、PIZZA OF DEATH RECORDSは信じているのだ。そして呼び起こすきっかけが、「BECAUSE IT’S 2020」なのだ。例えばCOUNTRY YARD。彼らはいつも確かめ合うように音を重ね、それを放出するかのようにライブをスタートさせる。「BECAUSE IT’S 2020」でも同じようにライブのスタートを切る姿に、自然と彼らのライブが脳内に描かれる。Ken Yokoyamaのアルバムでは、シンガロングパートがいつものように用意されていて、私たちは自然とそこで声を上げてしまう。それから、これは全組に言えることなのでアーティストをピックアップしないけれど、曲のつなぎもまさにライブそのもの。形としてトラックで区切られているけれど、音が連なってそのまま次の曲になだれ込んでいく。それこそ曲単位で聞くことが常習化しているこの時代に、トラックを飛ばすことなんて考えられないし、作品としても考えられていない。だからといってBGMにもさせてくれない。再生したら最後、そこではライブが始まってしまう。ちなみに、いつもと違う姿で演奏しているBURLは、MCで何が違うかを教えてくれているので、そこにもぜひ注目を。
それからもう一つ、この企画の肝なのが“対バン形式”であるということ。スケジュールの都合などから、全組ではないけれど、例えばDRADNATS、MEANING、emberは同じ日に同じ会場で“対バン”している。対バンライブの面白さ、特にレーベルメイトなどの盟友との競演が、それぞれのライブにどのような影響や刺激を与えるかは、きっとこの特設サイトを読んでいる皆さんはよく知っていると思う。目の前に観客がいないからこそ余計、対バンの存在はライブに大きな影響を与えているはずだ。
「なぜ映像ではないのか」。それはPIZZA OF DEATH RECORDSが、ライブの力を信じているからであり、ライブバンドを信じているからであり、ライブに足を運ぶ観客を信じているからだった。そしてこれが2020のライブのリアルだからである。