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PIZZA OF DEATH RECORDS PRESENTS [ NECAUSE IT'S 2020 ]

CROSS REVIEW

Review 03
石井 恵梨子

 キュイーン、だと長らく思い込んでいたが、実際はヒャエーーン、みたいな擬音だった。新代田フィーバーの、大阪アニマの、名古屋ダイヤモンドホールの、あとは札幌カウンターアクションの、あの巨大スピーカーから響いてくるギターのフィードバックノイズ。

 うわっ、久しく浴びていなかったのはこれだった。長らく仮死状態にしてある心の一部、今までライブに通うことでのみ満たされていた部分は、この音から始まるものを貪り食うことで確かに3月まで生きていた。

 お前ちょっと起きろ、とヤツの仮死状態を解禁する。ライブハウスに戻れる日まで自分ではあえて触らないようにしていたが、その日が訪れぬうちから、また心の全体が動き始めた。そうなることで日々が変わった。具体的には、爆音のパンクやハードコアをガンガン聴けるようになり、思わず立ち上がって頭を振ったり部屋の中で踊り出したり、イエーッ!と声を出して拳を突き上げたりするようになった。たったひとり、部屋の中で。

 何やってんのと笑われても構わないし、笑う人をむしろ憐れんで差し上げたい。酒が入るとか友人と盛り上がるなどのきっかけもなしに、いい大人がひとり部屋の中でそんなふうになってしまえるのがライブ音源の凄さだ。人を狂わせるライブバンドの力。それを目と耳と体で知ってきた時間にはどんな知識や情報も敵わない。ピザオブデス所属9バンドによる無観客一発録りライブ音源シリーズ。実際のモッシュピットはまだ遠いが、あの興奮ならこうして目の前にずらりと揃っている。やったぁ。SLANGなんか聴いた日には大声で叫ばざるを得ない。く・そ・の・ふ・き・だ・ま・り!!

 一発録りとは思えない、と書ける作品は案外少ない。客ともみくちゃになることで誤魔化されてきた演奏の粗さやズレはモロに露呈している。だから何だ。こちとら正しい作品実演会を求めているわけじゃない。毎回そこでしか起きないこと、その日その瞬間にしか得られないものを求めてライブハウスに通ってきた。バンドの体温を、その日のステージに込められた魂を確かめたいだけだ。そして一発録り音源であればそれは必ず伝わるのである。

 実のところ、私のライブハウス通いは3月25日のMEANINGで止まっている。すでに公演中止が相次いでいた新代田フィーバーで、来たい人だけ来てくれと強行されたワンマンライブ。普段は流暢な英語で歌うHAYATOが日本語で叫ぶシーンがあった。当たり前がどんどん奪われていく時期、目に見えない新種のウィルス相手に、無力な我々は何もできない、わけがねぇだろ? そんな表情で彼は懸命に言葉を届けフロアに飛び込んでいった。道で会って話すなら絶対に言えないような熱い誓いは、ライブハウスだから言えたこと。フロアの隅で少しだけ泣きながら、HAYATOをただ見上げていたのを覚えている。

 それがまた聴ける。好みのバンドだらけなので甲乙はつけられないが、一番心を揺さぶるのはMEANING「THE UNBROKEN HEART」だ。

 仮死状態になど、なっていられない。

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