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PIZZA OF DEATH RECORDS PRESENTS [ NECAUSE IT'S 2020 ]

CROSS REVIEW

Review 07
荒金 良介

 ライヴ盤が大好きだ。人生でもっとも聴いた作品はオジー・オズボーンのライヴ盤『TRIBUTE〜ランディ・ローズに捧ぐ』であり、もはや何百回CDを手に取ったかわからない。特に「Suicide Solution(With Guitar Solo)」におけるランディのギター・ソロは神がかっており、このパートだけでもプライスレスの価値がある。アーティストの魅力や本質は、いつの時代も"ライヴ"にあると信じて疑わない。ただし、コロナ禍の今は多くのアーティストが本領発揮の場を奪われた状態だ。

 パンクの老舗レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」が所属9バンドによる無観客ライヴ音源をリリースするという。この一報を聞いたときは大胆な発想だなと感じ、それと同時に大丈夫なのだろうか?と多少の危惧もあった。コロナ禍を利用してスタジオ作品を録音する人たちはたくさんいる。しかし、あえて無観客のライヴ音源を発表するのは世界的にも初の試みではないだろうか。

 全9作品を聴き終え、真っ先に感じたのは"新しいライヴ音源の形"を提示してくれた驚嘆と興奮である。当然ながらここにはバンドの演奏に覆い被さってくる歓声も熱狂もない。あるのは、ライヴハウスで演奏し続けるプレイヤーの熱のみ。そう、今回の無観客ライヴ盤の楽しみ方は、プレイヤーの熱量と温度をノー・フィルターで感じ取れる醍醐味にある。通常のライヴ盤以上に、ある意味、生々しい人間味が伝わってくるのだ。スタジオ作品とも、ライヴハウスで浴びる演奏とも趣を異にした、等身大の中の等身大と言えるバンドの個性が9者9様に炙り出されていて、非常に興味深かった。

 いくつか気になる作品をピックアップすると、昨年6月に5thアルバム『Hang On The Faith』を発表したDRADNATS。残念ながら、レコ発ツアーはできない状況で新曲発表の場を奪われた彼ら。その溜まりに溜まったエネルギーが歌声と演奏を勢いづかせ、透き通るグッド・メロディが爆発しまくっている。生々しい息遣いを含めて、現3ピースのカタマリ感を存分に楽しめる音源だ。また、今回の9作品の中でもっとも驚いたのは名古屋・栄の路上ライヴで鍛え上げてきた4人組、Suspended 4th。レッド・ツェッペリンの再来と言われる米ミシガン発のグレタ・ヴァン・フリート同様、積極的にインプロヴィゼーションを取り入れた野蛮かつフリーキーな演奏はここでも惜しみなく披露。飾らないMCも入れながら、普段通りのライヴを展開するかと思いきや、歌入りの既発曲を全編インスト・バージョンで披露するブッ飛び具合で完全に意表を突かれた。卓越した演奏力で饒舌に語りかけてくる、ここだけのスペシャルなライヴ音源になっている。最後はCOUNTRY YARDを挙げたい。ライヴハウスの空気の揺れさえもリアルに伝わってくる繊細な歌声と演奏の絡みは聴き応え十分。バンドが放つ色気、情緒、匂いまで感じられるプレイにとことん心酔した。ほかの作品においても2020年という時代を切り取った世界初(!?)の無観客ライヴ盤ゆえに、なかなか気軽にライヴハウスに通えない今、これ以上のギフトは他にないだろう。大好きなライヴ盤がまた増えてしまった。

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