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PIZZA OF DEATH RECORDS PRESENTS [ NECAUSE IT'S 2020 ]

CROSS REVIEW

Review 17
藤田 琢己

音楽を含めたイベント業務に関わって仕事をしていることが多い私は、とにかく不安定で試行錯誤の毎日だ。安心できる土台もあまりなく、とにかく自分のできることを探して試みている。

創作を主軸に置くスタンスのアーティストにとっては、在宅でコツコツと変わらぬ活動をしているという話も聞いたが、バンドマンはどうだろう。全国を回って音を鳴らし、その音に集まるたくさんのエネルギーこそがバンドの燃料になり、次の活動に繋がっていく。そうやって育んだものは、全国のリスナー、バンドマンと日々現場で情熱を交わし合って日本中を覆っている、伸び伸びと育った蔦のようなイメージだ。

それが今、ぷつりと切られているようなイメージがある。

蔦を伸ばすことも、そこに栄養を送ることもできずに、ライブハウスが閉店の憂き目にあっているニュースを目にし続けている。少しづつ状況は変わってきているがその状況は予断を許さなままはや半年である。この10年で1000日ほどライブハウスに通ってバンドや音楽と接していた自分としては無力感に苛まれている。

バンド活動はどうだろうか、配信ライブやサブスクリプション、「有観客」なんて不思議な言葉も自然と口から出てくるようになった今、色々と模索を続けながらこの世界の状況に対してそれぞれ答えを出してくれている。

そこへきてこの「Because it’s 2020」だ。レーベルバンドが一堂に介して、ライブ収録を音源化して続々とリリースする。ライブを中心にその魅力を伝えてきたバンドが集まるレーベルだからこそできる驚きの連続リリースプロジェクトだ。そのラインナップの中には実際に生でライブを見たバンドもいるし、これからが楽しみのバンドもいる。

ぜひ自分の好きなバンドの音源をゲットして、ここだけにしかない独特の緊張感、ライブ感、それぞれのバンドのスタンスまでも伝わる作品に耳を傾けてほしい。

バンド側からしたら、目の前にお客さんがいない状態での「ライブ」のエネルギーを、一発勝負で通して演奏する。自分のいつものライブの起伏を、見る人の表情や反応を見ずに作り出していくのだ。トップバッターはSuspended 4thだった、テクニカルにぶっといグルーヴで鳴らすロックはライブ会場のどでかいスピーカーだけでなく、耳元にぶつかってくる感覚もまた気持ちよく乗れる。彼らはちゃんとライブのようにMCを入れ込んでライブアルバムに仕上げた。そこで「むずい(笑)」と語られているのがまたリアルだ。原点の路上をはじめ、対バンやイベント、他の出演者や道ゆくお客さんに応じて、インストから歌ものと、楽曲の選択や演奏が変わってくるであろう彼らが、頼れる判断材料なくライブに臨んでいるというのを感じた。しかしながらメンバーのテクニックや展開のダイナミックさ、パッションは耳元にダイレクトに迫ってくる。これはスタジオ録音オリジナル音源にはない魅力である。

一方でSLANGやMEANINGはライブで魅せてくれる攻撃力がそのままぎゅっとパッケージされていて、まるで目の前のデバイスから3Dの映像のように飛び出してこっちに向かってくるような音源だ。実際にライブを見たことがあるので、脳内では最前列でライブを見ているような手に汗握ってステージからくるパワーを受け止めている自分がいる。MEANINGの中盤あたりでは、大汗をかいて垂れ下がってくるアシンメトリーの前髪をかきあげながらお客さんの中に飛び込んで歌うHAYATO君が見えてくるくらい、圧倒的な演奏でもって、聴いている僕をライブハウスに連れて行ってくれた。

ライブ録音のアルバム、という共通の設定だからどのバンドも聴けば近い感覚になるのかなと思っていたら、実際はそれぞれ全然違う感触があるのだ。

個々のバンドが今感じる「ライブ」というものに対するスタンス、ステートメントのような、メッセージを感じるものになっている。あなたの好きなバンドは、今どんなことをこの作品を通して伝えたいんだろうか。あなた自身の耳で、心で、想像力で受け取ってほしい。

単純にライブの代替ではない楽しみ方も広がっているのだ、普段だったら周りの人がいて恥ずかしかった人はこれに合わせて腕を上げながら歌ってみたり、頭を振ってみたり、体を揺らしてみたり、はたまたじっくりと向き合い実際のライブよりも細部にこだわって聴いてみたり、、、耳元で、街中に持って行って、車の中で、あえて部屋全体に広がるように、いろんなスタイルで楽しめるのもまた音源化されているからこその醍醐味である。

Ken Yokoyamaの音源には、、、なんとMCがないのだ(笑)。当たり前ではあるのだけど、あのニヤニヤする、その日その場にしかないお客さんとのコミュニケーションは、実際にライブハウスでひしめき合ってステージを見上げるその日までお預けなのだ。これもまたこの音源に対するバンドのスタンスだろう。しかし僕らはできることがある。歌の中では「Sing it!!!」ときっちりと煽ってくるのだ。だから来るべき日のためにシンガロングする準備をしておこうと思う。このライブは何回でも同じ体験ができるのだから。

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