Review 04
小野島 大
その音の生々しい迫力に驚いた。まずはSuspeded 4thから聴き始めたが、メンバーの若い身体から発するゴツゴツした音が、凄まじい臨場感を伴ってぐいぐい迫ってくる。この強烈なまでに実在感のある音像は、通常のスタジオ録音のアルバムではなかなか聴くことができないものだ。客のいないライヴ・ハウスでの一発録り。ダビングを重ね入念に作り込んだサウンドとは違う、一筆書きのスピード感と、緊張感というのとも少し違う、心地よく張り詰めた空気感。といって客の入った通常のライヴとも違う。プレッシャーと共に大いに力になるはずのオーディエンスの熱い反応がない代わり、装飾を剥ぎ取ったバンドの実体が赤裸々なまでにさらけ出されている。早い話、オーディエンス・ノイズがない分、バンドの実力が丸わかりなのだ。それは技術面だけではない。生身の肉体ひとつできっちり勝負できる肝の太さも含めて、バンドの強さと器の大きさ、言い換えれば人間力が試されるのだ。その意味で、これは怖い企画でもある。
若いSuspeded 4thだけではない。結成20年を超える大阪のベテラン、BURLの若々しく躍動するパンク・ロック、emberのポップに弾むロックンロール、COUNTRY YARDの繊細でメロディアスな歌心、DRADNATSのハイスタ直系の王道メロディック・パンク、MEANINGの重戦車のように突進する重厚なハードコア、SLANGの妥協なき研ぎ住まされたサウンドの言葉の刃、そして長いキャリアが血となり肉となったGARLICBOYSの味わい深いロック、そして御大KEN YOKOYAMAの安定憾抜群の、だがどこか危うさも秘めたパンク・ロック。生々しいバンド感が空気振動を経て伝わってくる点ではどれも変わりない。バンドの個性は過不足なく表現されているのに、鳴っている音には明確な共通点がある。骨太でしなやかで強靱で硬質で、そして温かい。Suspeded 4thとSLANGを除き、BBQ CHICKENSのドラマーであり、長年パンク・シーンで数多くのバンドを手がけて、バンドのライヴの音がどういうものなのか熟知するアンドリューがすべての音源のエンジニアリングを担当している。この音はバンドの音であり、アンドリューの音であり、同時にPIZZA OF DEATHの音でもある。
今どき珍しい、レーベル主導によって実現した今回の『Because It's 2020』のシリーズは、コロナによるパンデミックでライヴやフェスやツアーがことごとく中止となり、多くのバンドがその居場所とアイデンティティを失いつつある非常事態に、レーベルとして何かできないかと考えた結果である。これはライヴやツアーができない状況でバンドの存在感をアピールするための手段でもあるが、同時にPIZZA OF DEATHが考える「ホンモノのロック・バンドとは何か」という問いかけでもある。時にヨレていたりズレていたり外れていたりもする演奏は、紛れもなく人間がプレイしている証。これが彼らの等身大の姿なのだ。この機会に、それを確認したい。