Review 15
山口 智男
『BECAUSE IT’S 2020』というタイトルに込めた思いをしっかりと受け止めつつ、曲間にSuspended 4thが思わず洩らした「お客さんの前でやりたい!」という言葉に頷きながら、全9組の渾身のライブを楽しませてもらった。そして、企画のそもそもの意図を考えると見当違いなのかもと思いながらも、今現在、このシリーズのいわゆるコンテンツとしての可能性に期待が膨らみ、今回の9作品で終わらせずに、これ以降もシリーズとして、ぜひ続けていってほしいと思い始めている。
3か月にわたるリリースではあるけれど、それっきりじゃもったいない。今後5年、10年と続けていって、「なぜ『BECAUSE IT’S 2020』なのか?」となったとき、それはねと今一度、2020年のライブ・シーンの状況や、そこでバンドマン、ライブハウス、そしてライブができないという未曽有の状況に対して、次々に手を打ってきたPIZZA OF DEATHをはじめ、レーベルがどんな思いを味わっていたのか、そしていかに立ち向かったのかということを思い出すことは決してムダではないはずだ。そのマイルストーンとして、今回の9作品は、なかなかのインパクトを持っていると思うが、喉元過ぎて何とやらという言葉があることを考えると、『BECAUSE IT’S 2020』というコンテンツを残し続けることにも意義があると思う。
また、個人的にはそれと同時に『BECAUSE IT’S 2020』がライブ音源および映像をアーカイブとして残すことに、欧米のバンドに比べて慎重すぎる日本人の意識をもうちょっとおおらかに変えてくれたらいいのにとも考えている。
欧米人と日本人の気質の違いもあるとは思うが、日頃、欧米のインディ・バンドを聴きながら感じることの1つに、欧米のバンドのライブを聴いたり、見たりしようとすると、手軽な方法がさまざまあるのに、なぜ日本にはほとんどないんだろうかということがある。
たとえば、現在、僕らは欧米のラジオ局や音楽メディアが提供している欧米のバンドのライブ映像を、日本にいながらネットで楽しむことができる。そのほとんどが無料なので、ふだん欧米のインディ・バンドも熱心に聴いている僕のようなリスナーにとっては、新たなバンドを探すという意味でも、とてもありがたいのだが、ネットが普及する以前の時代に遡れば、たとえばイギリスの国営放送BBCの人気DJ、ジョン・ピールの番組で収録したスタジオ・ライブをソースとした『The Peel Sessions』という共通のジャケットを持った12インチのアナログ盤のシリーズがあって、日本ではなかなかライブを見ることができないバンドのライブを追体験できたのである。その他、パンク・バンド限定の『Live And Loud』というシリーズもネットやサブスクリプションがない時代にはとてもありがたかった。
もちろん、ライブはライブハウスに実際足を運んで楽しむものという大前提はあるとは思うが、ライブをコンテンツとして楽しむ文化は、そもそもライブがそれだけ身近なものだからこそ生まれたんじゃないかと思うし、逆に普段からライブをコンテンツとして気軽に楽しんでいれば、いざライブハウスに出かけようと思った時(あるいは配信ライブのチケットを購入しようと思った時)にハードルがぐっと下がるような気もする。
ライブをコンテンツとして楽しむことに先鞭をつけるという意味で、『BECAUSE IT’S 2020』が前述した『The Peel Sessions』や、かつてFat Wreck Chordsがリリースしていた『Live In A Dive』やジャック・ホワイトのThird Man Recordsが現在もリリースしている『Live At Third Man Records』というシリーズのようになっていったらおもしろい。
『Live At Third Man Records』がそうしているように所属バンドだけに限定する必要はない。ジョン・ピールの番組がそうだったように『BECAUSE IT’S 2020』が新人の登竜門の役割を果たしてもいい。ライブに軸足を置いているなら、デビューがライブ盤だっていいじゃないか。ヤードバーズにMC5、シャム69は片面だけだったが、デビュー・アルバムがライブ盤だったバンドがいないわけじゃない。そのうち『BECAUSE IT’S 2020』のシリーズに加わることを目標にするバンドが現れるかもしれない――と、まぁ勝手に夢が膨らんだのだが、こんな状況だ。音楽ファンに夢や希望を与えることは、バンドやレーベルをはじめ、音楽業界に関わる人間の役目に違いない。その点、今回の『BECAUSE IT’S 2020』も含め、常に首尾一貫しているPIZZA OF DEATHの活動には、こうして好き勝手に文章を書きながら業界の末席を汚している人間として頭が下がるばかりなのである。
閑話休題。自分たちはライブ・バンドだと自負している9組の競演だ。意識するしないにかかわらず、当然芽生えた対抗心も含め、音楽に取り組むアティテュードが滲み出た演奏はそれぞれに聴き応えがある。無観客のライブハウスでライブを一発録りというシチュエーションゆえか、全作品に通底しているぴりっとした緊張感も心地いい。
そして、Ken Yokoyamaのミスフィッツ「Astro Zombies」、emberのイーグルス「Take It Easy」、モトリー・クルー「Kickstart My Heart」、ラモーンズ「Glad To See You Go」。スタジオ音源にはなかなか入れづらいけれど、ライブならと2組がセトリに紛れ込ませた初音源化となるカバーも聴き逃せない。それもライブの醍醐味だろう。そして、バンドのルーツやバックグランドが垣間見えるカバーが筆者は大好きなのだった。