Review 16
高橋 美穂
クロスレビューなので思い切り個人的な話から書くけれど、私がライブにあまり行かなく、というか行けなくなったのは、コロナ禍にはじまった話ではない。子どもを妊娠、出産してから、かれこれ6年ほど、悲しいかなライブハウスから足が遠のいている。音楽に携わる者としては申し訳ない気持ちを抱えつつ、この道を選んでいるのは私自身だし、様々な理由でライブに行きにくくなった人だって、音楽を楽しんでいいはず。そう信じて今に至っている。
そんな私にとって2020年は、ライブをたくさん観ることができた一年になった。もちろん、配信ライブが増えたからだ。配信ライブはライブではない、という意見もたくさん目にした。でも、配信ライブでも心は震えた、少なくとも私は。理屈じゃなくて、そこがすべてなんじゃないだろうか。もっと言えば、映像作品のように編集されたものは、頭で考えさせられるところがあって、配信ライブのようにまんまなものは、まず心が震えるというか。どちらにも良さがあるけれど、そこが違いという気がする。さらに、リアルライブ(この言い方も難しいけれど)は、そこに“体験”が加わるからこそ、何倍もプレシャスなものになるんだろう。
やっと本題に入ると、今回のPIZZA OF DEATHの『Because It's 2020』は、そういった私のような人間にとっては、本当に嬉しい企画だ。一発録りのライブ盤は、限りなくライブそのまんまだから。そういえば、まだライブにあまり行けなかった12、3歳の頃、私はライブ盤ばかりを聴いていた。オーソドックスなスタイルかもしれないけれど、キッズの気持ちを理解しているPIZZAならではの企画だと思う。また、「ライブハウスを使ったライブ盤」というところにも、大いに意味を感じる。2020年、一般的なニュースでも報じられるほど、苦境に立たされたライブハウス。私も、ライブハウスから足が遠のいている人間だが、それでもどっしり構えていられるのは、いつかライブハウスに帰れると思っているからだ。そのライブハウスがなくなってしまっては、大袈裟ではなく路頭に迷う。この企画は、リアルライブ以外のライブハウスの使い方の提示として、たしかな光明となるのではないだろうか。
ひとつひとつ聴いたが、どれも心が震える作品ばかり。最高傑作を引っ提げたツアーの足止めを食らいながらも、さらに広がりゆく可能性を提示するような演奏を封じ込めたCOUNTRY YARD。新作で待望の復帰を果たし、その勢いを彼ららしいメッセージが感じられるようなセットリストに込めてぶっ放しているKen Yokoyama。名曲を惜しげもなくパワフルな演奏で連打しまくり、血沸き肉躍るようなスタミナを注入してくれるGARLIC BOYS。……どのバンドも、諦めることも妥協することもなく、今だからこそできる表現を追求している姿勢に、自分自身の背中も押される思いがした。自分たちでハンドルを握ってきたバンドや、信念を持って突き進んできたレーベルは、どんな状況でも本当に強い。
ライブに行きにくくなっても、ずっと変わらず音楽に助けられてきた私が、実感を持って言う。体に気をつけるあまり、心が疲弊しはじめることは決して少なくない。そんな時に触れてほしい音楽と精神が、この企画の作品の中には、はち切れんばかりに詰まっている。